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「多数のわらじ」を履いている?私の、ちょっとだけ息抜きさせてもらえる場所だったり
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・・・どうしてこんなに長くなったんだろうか。
やはり自分の好きな物語のパロディだから、でしょうか。

今回も相変わらずこの植物ですが、もう1種類出てきます。
juzudama.jpghatomugi.jpg
先回とおなじジュズダマと、今回はハトムギも出てきます。
この2つは「うるちともち」の関係とか、「ハトムギは改良品種」、「ジュズダマは多年草でハトムギは一年草」、「薬効はハトムギのほうが大きい」・・・等々。

ま、近い親戚、程度の認識でとりあえずは大丈夫です。




恋次は2度目の生を終え、再び現世に生まれてきました。
其処では何が待ち受けているのでしょうか・・・?


注意事項は相変わらずです。
○恋次氏が話の都合上、2回死んでます(最初は現世で、2回目はあの世で。)
○拙宅の縁のある地方のとある昔話がベースになっています(でも原型がなくなってるような。)

・・・本当は、此れで終わるはずだったのですが・・・長すぎるので分けます。
次も長いから分けるとして・・・此れじゃラストは10月に入ってしまう!!!


『紫彩の娘』(3)

 「よぅ、恋次!!・・・浮竹の長者さまが呼んでいたぞ!!」
「あ?長者さまが??」
 
あるところに、恋次という若者がおりました。
村のはずれの山の麓に、作業場と住まいを備えた山小屋を建てて暮らしておりました。
恋次は生まれて直ぐに母を亡くし、つい先日父を流行り病で亡くしました。
そんな彼を気遣ってか、父の喪が明けてから、村の者は所帯を持ってもおかしくない年である恋次に縁談を勧めるようになりました。
しかし、恋次は頑として其れを拒みました。
何故だか彼にもよく分かっていなかったのですが、自分には何か大事な約束がある気がする、そう感じていたのです。
勿論、誰も信じたりしなかろうと思っていたので、其れを口に出す事はありませんでしたが。
 
「長者様、また縁談なら俺はまるっきり受けるつもりは」
「いやぁ違うんだよ恋次。」
朗らかに笑うこの村の長者様・・・浮竹の長者様、と皆は呼んでおりましたが・・・体が弱く臥せっていることが多いものの、畑の作物や灌漑に対する知識が豊富で、また人当たりもとても良かったため、村の皆から大層慕われておりました。
なので、恋次もこの浮竹の長者様の依頼は断るに断りきれないことも多々ありました。
もっとも、長者様は恋次に無理を承知なお願いをした場合にはそれなりに報いましたし、縁談については「恋次の意思も考えてやらねばならないものだ」と言って無理強いは決してしませんでした。
「ちょっと山仕事を教えてやってほしい子がいてね。
でも他のみんなはどうも受け入れてくれなくてね・・・また無理を承知でお願いできないか?」
「・・・村のみんなが受け入れない、って、どういうことっすか?」
恋次が怪訝そうな顔をすると、浮竹の長者様は「こちらへおいで」と、庭の隅の蔵のほうに向かって呼びかけ、手招きをしました。
「・・・なんだありゃ。」
浮竹の長者様の明るい声にこたえるかのように、おずおずと蔵の影から出てきたのは・・・見るからに奇妙な姿をした子どもでした。
「これでも、年は君と2、3くらいしか変わらないんだ。」
「でも、いや・・・その、これは一体・・・・」
その子どもは、背は低く痩せっぽち、黒髪を後ろに束ねて手拭を「姉さん被り」しておりました。
しかし着物は男物を直したかのような地味なもの。
何より恋次を驚かせたのは・・・顔が真っ黒だったこと。
日に焼けたのではなく、まるで墨でも塗りたくったかのような、鍋や釜の底が焼け付いて煤が付いたかのような・・・そういう黒さでした。
お陰で表情はおろか、どんな顔立ちをしているのかすら分かりません。
かろうじて伏し目がちではあれど、比較的大きな目を持っているのだな、ということだけが分かる程度でした。
「・・・色々とあって、こんなことになってしまっているんだけれども・・・。」
「・・・あんまりなことがあった、だから長者様は引き取られた・・・ってところですかね。」
「まあ、そんなところだ。」
「でも、手拭を姉さん被りしているということは・・・こいつは男じゃねえっすよね?」
「最初は・・・村の女衆にお願いしようと思ったんだが、彼女らもどう接したらいいか分からなくてな。
実は、この村に来てから口を一切利いてくれないんだ。意思疎通がしづらくて尚のこと女衆の中になじめなくてな。
あ、耳は聴こえているし、意思疎通も出来る、それは確認しているから大丈夫。」
「でも、山仕事はさすがに・・・・」
「こう見えて意外と力仕事もそこそこ出来るみたいなんだ・・・というわけで、恋次、頼まれてくれないかな。
女衆で駄目だったけれど、男衆だともっと駄目だろう?」
「まぁ・・・浮竹の長者様のお願いごとじゃ断れねぇしな・・・。って、俺も一応男衆ですけど??」
「君はまぁ・・・村の皆から『人畜無害』って思われているし。」
「それ、褒めてんですか貶してるんですか長者様・・・。」
 
「ま、こうなったのも何かの縁だ。よろしく頼むな。」
恋次が笑いかけても、目の前の娘は顔色を伺うように上目遣いで恋次を見上げるだけ。
「・・・言葉、しゃべれねーんだっけな。ま、何とかなるだろ。」
恋次は娘を自分の住まいへ連れてゆきました。
「そういやアンタは、なんていう名前なんだ?俺の事は呼べなくても俺がアンタを呼ぶときに困るだろうから。」
「・・・・」
「えっと・・・字は、書けるか?ひらがなでもいいぞ?」
娘は首をふるふると横に振りました。
「・・・マジかよ・・・
ま、山の中で二人で作業する時にはともかく、他の仲間内と作業するときに困るから、後で浮竹の長者様に確認するか。
そうだ・・・時間のあるときや夕餉の後にでも、アンタに字を教えたるな。
知っていたほうが便利だからな。」
 
一通り家の中と作業場の中を案内し終わった時には、既に夕暮れ時になっておりました。
恋次は長者様の話から、この娘が料理を得手としないことを薄々わかっていたので、自分で台所に立ちました。
「アンタはどのくらい食えるんだ?一杯食えるか?」
娘が首を横に振ると、恋次は努めて明るく言いました。
「じゃ、いつもの俺の量よりちっとだけ多めでいいか。
あ、でももしも食えるようならお替りしろよ。明日から早速山の中を歩くからな。」
大層なものではありませんでしたが、静かで交わす言葉が無くとも、恋次にとって自分以外の人間と久々に食べる夕餉は、いつもと違うものでした。
「そういえば親父が流行り病で逝っちまう前に食った以来だな、自分以外の人間とメシを食うのは。」
・・・ふと恋次が娘の膳をみると、胡瓜の糠漬けが綺麗に無くなっていました。
「もう糠漬け食ったのか?・・・お前、胡瓜の糠漬けが好きか?」
娘が首を縦に振ると、そうかそうか・・・と言って、恋次は自分の膳に乗っていた糠漬けを全て娘にやりました。
「好きなモンなら一杯食え。でも漬物だからな・・・やっぱり余り食いすぎんなよ。喉渇くからな。」
真っ黒な顔のためか表情が伺えないものの、何処か嬉しそうだ、と雰囲気で恋次は感じました。
食事が終わると恋次は布団を敷いてやりました。
「今日は疲れただろ。早めに休んでいいぞ。」
娘は不思議そうな顔をして恋次を見上げます。
「あ、布団は2組あるから安心しろ。俺は死んだ親父の布団で寝っから。俺が使っているほうを敷いたから、取り合えずそれを使え。
大丈夫だ、アンタを板の間にそのまま寝かせもしねェし、俺もちゃんと布団はあるから。
明日あたり、仕事を早めに切り上げてアンタ用の布団を手にいれるか。」
 
翌日、恋次はいつもどおりに起きて朝餉の支度をしました。
それが終わってから、娘をそっと揺り起こしました。
「おい、朝だぞ。メシも出来てる。起きろ。顔洗ってこい。」
娘は布団を畳み、外に出て井戸の傍に行くと、顔を洗い始めました。
恋次はその様子を見ていましたが・・・顔を洗った水は濁ることも無く、顔は黒いままでした。
「・・・あの黒さは、一体なんなんだ・・・?」
それから二人で朝餉を取り、山へ向かいました。
娘は山道を付いていくのがやっとではありましたが、大の大人でもぐうの音が出るような険しい道であっても、恋次の後をついて行きました。
そこで恋次はいつもどのような仕事をしているのかを娘に見せてやり、山の中に作った小屋で一休みしながら様々な話をしてやりました。
娘は声こそ発することがないものの、うなずきながら恋次の話に耳を傾けておりました。
「確か作業場に、俺が昔使っていた小さ目の鉈や斧があったはずだ。
多分アンタに丁度良さそうだから、後で探しておくな。
其れを使って、実際に木を切ってみような。」
娘は嬉しそうな雰囲気を漂わせて、こくり、とうなずきました。
 
「おい、いいものを貰ったぞ。」
暫く経った後、恋次が娘のために布団を探しに行って戻ってきました。
「長者様が古い布団でよければもって行けってさ。
って言ってもな、綿は古くても打ち直してあるし、真新しい布生地だぞ。
さっすが長者様だ。」
そういって恋次は布団を包んだ大風呂敷を床に置きました。
「それとな、他にも貰ったんだ。ハギレやお古の着物だけどよ・・・。
山仕事のときは男物でもいいけど、女物の着物を一切持っていないってのもな。
ハギレは鼻緒が切れたら替えの鼻緒にも出来るだろうし・・・
あ、いいことを思いついた。」
娘の前で一人で喋りながら、恋次は奥の戸棚から・・・裁縫用具を取り出しました。
「此れは母親の形見だ。着物も形見で何か残ってりゃ良かったんだけどな、ウチじゃ女物を取って置いても誰も着やしないってな、親父が村の皆に形見分けしちまったんだ。
残ってりゃアンタに着せてやれたかも知れねえな・・・。
それはともかく、今からイイモンを作ってやるからな。」
ここは何もないからつまらないだろう、そういって恋次は裁縫箱を開けました。
 
「・・・お手玉だ。」
恋次が作ったのは、娘の手にぴったりな、小さなお手玉でした。
「お袋はこういうのに豆とか入れていたんだけな、生憎豆を切らしていたからな・・・薬代わりに取っておいたジュズダマを詰めてみたんだ。」
娘はその目を大きく見開き、恐る恐るお手玉に手を伸ばしました。
「どうだ?アンタの良い玩具になればいいけどよ。」
気に入った様子の娘を見て、恋次はニカリと笑いました。
それからというもの、娘は山仕事の休憩中や夕餉の後など、お手玉で何処となく嬉しそうに遊ぶようになりました。
声が出ないために歌などは歌えないものの、何かを口ずさむように口をぱくぱくと動かしておりました。
「早くアンタの声が戻るといいな。」
「・・・・」
あ、と・・・まるですっかり忘れていたかのように、恋次は声を発しました。
「アンタの名前、浮竹の長者様から結局聞けていないんだった・・・・」
布団を融通してもらった際に浮竹の長者様に尋ねていたものの、長者様からは「本人に聞いてご覧よ」と笑ってはぐらかされ、結局聞けずじまいだったのです。
「・・・っつーか、字も書けねぇんだよな・・・。
あ、俺が字を教えながら、どの読み方なのか聞けばいいのか。」
恋次は囲炉裏の隅っこを平にならし、火箸を掴むと娘を呼び寄せました。
「いいか、これから字と、その読み方を教えてやるな。
アンタの名前の音と同じ文字を書いたら、教えてくれ。」
恋次は火箸で「い」から順に平仮名を書いては消し、を続けました。
そして、「る」のところで、娘が恋次の着物の袖を引っ張りました。
「る?」
娘がうなずくと、恋次は「る・・・」と一言発したまま、黙ってしまいました。
「る・・・って、あんまり無ぇぞ、女の名前に。いや俺達男にも無ぇけど・・・・」
そこで二文字目も同じく火箸で書いて確認すれば良かったのでしょうが、恋次は「る」の名前を頭の中で思い浮かべるのに一生懸命だったので、そのことに気づきませんでした。
彼女は必死に「次の字を書いてくれ」と訴えましたが・・・残念なことに伝わらなかったようです。
「るみ、るい、るり・・・くらいか。でもどうもしっくりこねぇな。アンタらしくないっていうか。」
でもま、いっか・・・と恋次は笑い、一番その娘に似合いそうだという理由から、とりあえず「るり」と呼ぶことにしたそうです。
もっとも、字をそのあと直ぐに覚えた彼女から、本当は「るき」だったということを知らされることになりましたが。
「・・・るき、なんて思いつくかってぇの・・・・」
 
るきは恋次の指導もあって、瞬く間に山仕事のコツを掴んでゆきました。
その様子は村の人間も驚くほど。
「いやぁ恋次の教え方も上手いんだろうけれど、おるきの飲み込みが早いんだろうな。」
「これで喋れるようになれば、もっと村のモンとも打ち解けられるんだろうにな。」
恋次は「焦らせたって声は出ねぇ、いずれ出したい時にでるだろうよ。」と笑って言いました。
無理をさせたって出ないものは出ない、きっと何か辛すぎることがあったのだろう・・・恋次は薄々感じていました。
そして、あの真っ黒なるきの顔とも関係があるのでは無いか、とも思うようになっていたのです。
そんなある日、恋次とるきは沢のほうへ足を伸ばしておりました。
「今夜の晩飯に、魚でも取っていこうぜ。」
恋次は近くの木から細い枝を鉈で切り取ると、先を尖らせて即席の銛のようなものを作りました。
「アンタはそこで見てろ。川で遊んでいても構わねぇけど気をつけろよ。」
るきは少し離れたところから川底を覗き込んでいましたが、そこに綺麗な石を見つけました。
そっと川の水に足を浸し・・・手を伸ばしたとき、
「・・・っ!!」
バシャン、と水音がした方向に恋次が顔を向けると、るきが足を滑らせてひっくり返っておりました。
水深は浅いものの、気が動転したるきは混乱しており溺れかけておりました。
慌てて恋次がるきの傍に駆けつけ、水から引き上げて川原に連れて行くと、るきはぐったりしていたものの意識はあり、恋次の呼びかけにも手を挙げて答えました。
「るき・・・気をつけろって言ったじゃねぇか。」
「・・・すまぬ。」
「・・・ったくよぉ・・・・」
恋次はふと、今起こったことに気づきました。
「るき、お前・・・声が出てねぇか???」
「あ・・・・」
るき本人も自分で驚いている有様です。
恋次が初めて聞いたるきの声は、水に溺れたために疲れてかすれていたものの、女の声の中でもどちらかと言えば低めであろう、けれども凛とした心地のよい響きをもつものでした。
「こりゃアレか、水に落ちた衝撃でびっくりして声が出るようになった、ってヤツか。」
「わからぬが・・・」
「っつーか、アンタ、そういう言葉遣いするんだな。もっとこう村の女衆みたいな喋り方をするのかと思ったけど、まるで御侍のようだな。」
「馬鹿にしおって・・・・」
ハハハ、と恋次は笑い、るきも本気で怒っているわけでは無いものの・・・少々頭には来た様で、恋次の背中をバシッと叩いておりました。
 
恋次がるきを引き取ってから月日が流れ、季節は秋になりました。
山々も紅葉が始まって色づき、るきは山仕事の合間に時折手を止めて美しい彩りに目を奪われていました。
そんなるきを特に恋次は嗜めることもありません。るきはそれ以上に仕事をこなしていたからです。
最近では山で摂って来た蔓や竹やぶの竹で籠やザルを編んだり、恋次や自分の山仕事道具を修理したりもお手の物です・・・若干、形がいびつなものもありますが、其れでも細かく丁寧に目を詰んで編み上げた籠は中に入れたモノが米粒や粟粒であろうとも漏れないのだとか。
そんなある日、村を花嫁行列が横切って行くという話を恋次が耳にしました。
「るき、明日は山2つ向こうの長者様の娘さんが、あっちの山向こうの家にお嫁に行くんだって。
だから花嫁行列が見れるぞ。
山向こうの長者様は大金持ちらしいし、祝いの餅も沢山配られるらしいぜ。」
「・・・行かぬ。」
「え?」
「私は、行かぬ・・・行きたいのであれば一人で行け。」
るきは恋次の顔を見ることもなく、そう言い捨てて背を向けました。
「・・・そんなに嫌ならまぁ・・・いいけどよ、でも滅多に見れるモンでもねぇし、餅を貰うって思ってさ。
お前、お汁粉好きだろ?餅貰ったら汁粉作ったるからさ。」
 
「いやあ、花嫁行列はすげえな・・・白無垢姿だったから嫁さんの姿はよくわからなかったけれど。」
翌日、恋次とるきは花嫁行列を見に行きました。もっとも、るきは遠くからそっと眺めるだけでしたが。
「ほらるき、餅を沢山貰ってきたぜ。この前浮竹の長者様からもらった小豆もあるから、これで汁粉をたらふく食べようぜ。」
「・・・・」
「おい、るき・・・・」
るきは、ずっと花嫁行列を眺めていました。
それは何処か嬉しそうでもあり、哀しそうな・・・
(あれ・・・こんな顔、初めて見るけど・・・前に見たことがあるような気もすんなぁ・・・。)
「なぁ、るき・・・何で花嫁行列を見るのが嫌だったんだ?」
「嫌だったというわけではない・・・ただ、切なくなっただけだ。嬉しくもあるのだが・・・・」
「・・・何か、理由でもあるのか?」
ぽつりぽつりと話し始めたるきの話を、恋次は最初は信じられませんでした。
「あれは私の妹だ・・・あの花嫁行列を出した家が、私の実家なのだ。」
・・・るきは、今回花嫁となった山二つ向こうの長者様の家の娘だったのです。
「な、なんで長者様の娘が俺んとこで山仕事なんてしてんだよ??
・・・まぁ、浮竹の長者様が引き取るくらいだから、それなりに出所のはっきりした奴だとは想像したけどよ。」
「とはいえ、私はあの家の娘ではあれど、血のつながりは一切ない。
両親や妹とも似ても似付かぬ。
あの家の裏に捨てられていた私を、両親が引き取って育ててくださったのだ。その後妹が生まれ・・・その妹が、今回の花嫁だ。」
「でもだったらお前はあの花嫁の姉だろう?どうしてこんなところで遠くから眺める羽目になってんだ??」
「・・・今回の縁談は、元々は私あてに来たものだったらしい。」
「え・・・?」
るきは事の経緯を恋次に話しました。
 
元々、るきは今のような黒い顔では無かったのです。
今でもるきの手足は真っ白で雪のようでしたが、本来は顔も同じように真っ白だったのだとか。
ある日、そんなるきを、ある村の長者様の息子が見初め、縁談を申し込んだのだとか。
しかし、その話を聞いた両親は・・・るきではなく、自分達の実の娘を嫁がせたいと考えました。
そこで両親は一計を案じたのです。
「お前を占ってもらったら、どうやらお前には良くない厄が付いているらしい。
その厄を落とすには、竈の炭やすすを常に顔に塗りこみ、真っ黒な顔にするしか無い。」
そういって、るきの顔に竈の炭やすすを塗りこませたのです。
るきも自分を大事に育ててくれた両親の言っていることだからきっと間違いは無いのだろうと思い、熱心に炭やすすを顔に塗りこみました。
そうして・・・顔を洗ってもそう簡単には落とせないくらいに塗り込められた頃に、今回の縁談を持ち込んだ長者様が屋敷にやってきたのです。
「あいにく家には娘が二人おりまして・・・さて、どちらの娘をお望みでしょうか。」
両親はそういって、娘をふたり並べて座らせました。
方や綺麗に着飾った、そこそこ色の白い娘。そしてもう一方は顔の真っ黒な、貧相な着物を着せられた娘。
「さて・・・倅は雪のように白い肌の娘だと言っていたが・・・・」
「では、こちらの妹のほうでしょう。姉はこのように真っ黒な娘でございますから、とても嫁に出せるような娘ではございません。」
このとき、ようやくるきは・・・両親の思惑を悟ったのです。
妹を長者様の御家に嫁がせるために、自分の顔を黒くさせたのだ、と。
・・・そして今回のことを知った浮竹の長者様が自分を憐れに思ってくださり、「使用人として使えそうな娘を探している」と偽って引き取ってくれたのだそうです。
本来であれば拾い子であっても長者の家の者であれば「使用人として」など家から出す事はないのですが、両親も実の娘が無事に嫁ぐことが決まり、るきを邪魔に思っていたのでしょうか・・・すんなりとるきを浮竹の長者様の家に奉公に出したのです。
 
「なんだよそれ、酷ぇ話じゃないか!!」
「だが、私は構わないのだ・・・・」
「何でだよ!!お前酷いことをされたんだぞ!!」
「それでも!!・・・父上と母上は捨て子だった私を御自分の娘として育ててくださったのだ。」
「長者の家の娘だってのに、字も教えないでか?なんの勉強もさせないでか?ありえねぇだろ。
大体、家事ばっかりやらせてるようだし着る物だって粗末なもんばかり。
どう考えたって娘としてではなくて都合の良い使用人として育てたもいいところじゃねえか!!」
「だが、父上らが育ててくださらなかったら、私は恐らく生まれて直ぐに死んでいた。」
「・・・・」
「恋次、私はな・・・これでも両親には感謝しておるのだ。
そして、妹をああやって良家にお嫁に出せることで恩返しが出来た、そう思っているのだ。」
どこか諦めにも似たような声色でそういうるきに、恋次は返す言葉がありませんでした。
「なあ、るき」
「なんだ?」
「その顔の黒いの、落ちねえのか?」
「ああ・・・だいぶ塗り込んだり塗りこまれたりしたからな。そう簡単には落ちぬわ。」
「どのくらい塗りこまれた。」
「・・・かぞられぬ程だ。事あるごとに塗りこまれた。千も塗られたかも知れぬ。
お陰で、肌に染み込んだかのようになっているのか・・・今では洗っても落ちぬし、枕や敷布にも色移りせぬ。」
 
恋次は浮竹の長者様の家に向かうと、るきの今までのことを確かめました。
浮竹の長者様は、恋次がるきから聞いた話は全て本当のことであるとした上で、恋次にこれからどうするか尋ねました。
「あの山二つ向こうの長者様の家に殴りこみに行こうって事はないよね?」
「そんな無益なことするかっての。はらわたが煮えくり返りそうだけどよ。」
「そうか・・・。」
「あの、長者様、お願いがあるんすけど。」
「なんだい?」
「あの・・・その・・・何か柔らかい布とか、綿とか・・・譲ってもらえませんか?
金は後でどうにか融通します。」
「あるにはあるしお金なんて別に構わないんだけれど・・・どうするんだい?」
「るきの顔を、拭ってやりたいんです。時間はかかるだろうけれど・・・・」
 
恋次は浮竹の長者様から柔らかな布を譲り受けると、直ぐに家に戻りました。
家ではるきが慣れない手つきで夕餉の支度をしている最中でした。
「恋次、急に嫁入り行列で貰った餅を放り出して何処へ行っていたのだ?」
「いや、浮竹の長者様の所へな。布を譲ってもらってきたんだ。」
「布?・・・」
恋次は、納屋にしまってあったジュズダマを取ってくると、鍋に入れて煎じ始めました。
昔、母親がジュズダマを煎じた汁で顔を洗うと、肌にも良いし白くしてくれるのだ、と言っていたことを思い出したのです。
「恋次、何をしておるのだ・・・・」
「るき、お前の顔を元に戻してやる。」
「え?」
「お前の真っ黒な顔を、俺が元の顔に戻してやるから。」
「だが、もう何度も塗り込められて落ちないのだ、」
「千も塗り込められたってのは知ってらぁ。
でもな、千回塗り込められたんだったら、二千回でも三千回でも拭ってやる。
・・・アンタの顔を拭って痛めたら元も子もねえから、時間を掛けてな。」
「無駄なことを・・・・」
「無駄かどうかはやってみなけりゃ分かんねぇ。
それに、ジュズダマは薬だけでなく、肌に優しくて色を白くしてくれる効き目もあるってお袋が昔言ってた。
・・・今煎じてるから、それで洗って試してみようぜ、な?」
 
その晩から、恋次はるきの顔をジュズダマの煎じ汁を浸した布でぬぐってやるようになりました。
るきが自分で拭うと、諦め半分なのか・・・肌を傷つけかねないぞんざいな拭きかたになるのです。
朝起きて顔を洗った後に拭ってやり、昼飯後にも拭ってやり、寝る前に拭ってやり・・・朝昼晩とるきの顔をジュズダマの煎じ汁でそっと拭ってやることが、恋次の新たな日課になりました。
るきの肌は黒いもののきめが細かく、直ぐに傷ついてしまいそうな肌だったため、恋次は浮竹の長者様から譲ってもらった布で、そっと優しく傷つけぬように拭わなければなりません。
(こんなことするなんて・・・マジで胸糞悪ぃな・・・・)
腹の中ではこのような仕打ちをしたるきの両親に苛立ちながらも、それを決して行動には出しませんでした。るきの「両親には感謝をしている」という言葉に偽りが無い以上、自分が苛立ちを露わにすれば、それはるきの気持ちを無視して慮らないことの現われとなるからです。
 
ジュズダマを生憎切らしかけたときには、「ジュズダマの代わりにコレを使うと良いよ、此方の方が効き目があるから」と浮竹の長者様から鳩麦を分けてもらうこともありました。
「よく似てるけれど、やっぱり違うもんだな。」
「鳩麦のほうが柔らかいのだな。」
「もちとうるち、みてぇな関係らしいけど・・・俺は詳しい事はよくわかんねぇ。
でも、どっちも似たような効き目があるってさ。
此れは浮竹の長者様が御自分のために薬として育てていたものらしい。」
「それを頂いてしまって大丈夫なのか??」
「問題ないって言ってた。蔵には常に鳩麦があるし、1年では飲みきれないほどの量が毎年収穫できるんだと。
・・・つーか、俺がジュズダマを煎じていたのを知って驚いてたな。」
「浮竹の長者様には足を向けて眠れぬな。」
「そうだな・・・でも、きっと浮竹の長者様も、るきが元通りに戻ることを望んでるから、色々と助けてくださるんだろうな。」
「今度山でアケビや山葡萄を見つけたら、長者様に持っていこうか・・・・」
「きっと喜ぶぜ。」
 
毎日のように恋次はるきの顔を拭ってやりました。
その様な中で、真っ黒なるきの顔にも色々な特徴があることに気づきました。
思った以上に大きな瞳に小さめの口、整った目鼻立ち・・・
顔を拭き終わった後に開く目の色も、最近になって自分や村の人間と異なることに気づきました。
「なぁるき、オメェの目って、濃い青っつーか、藍色とか灰色っつーか・・・紫?」
「ああ、目か・・・・昔からこの色だった。
父上も母上も妹も、恋次や浮竹の長者様のように普通に茶色かったから、私も浮竹の長者様から言われるまで、自分の目の色が他人と違うなんて気づかなかったのだ。」
「・・・そんでもって今のその顔の色じゃ、そっちに注目が集まって目の色なんて気づかねーよな。」
「だが、別段目の色が違うからと言って不便もなく、見えないわけでもない。
私にとっては何の意味も無いものだ。」
「そうか?・・・普通にきれいだと思うけどよ。
・・・るきの黒い顔が白くなったら、今度はその目が人目を引くようになるぜ。」
「白くなど、成らぬわ。」
「・・・ゆっくりいこうな。俺のデコみたいに刺青を入れたわけじゃねえんだ。」
「刺青?」
「ああ、このデコの模様は刺青だ。
なんつーか・・・山の仕事をする際の魔よけ?みたいなもんだ。親父も入れてた。
お前の顔はそういうモンじゃねえ、塗りこまれたって言っても、色が染み込むにも限度があるんだからよ。」
るきはだまりこくり・・・恋次が「おい、どうした」と心配して声を掛けたとき、
ようやくるきは小さな声を発しました。
「・・・貴様は愛されておったのだな。」
「どうした、急に。」
「貴様が父上や母上の話をするとき、とても穏やかな顔をしておる。
それはきっと大事にされてきたからであろう。
・・・何よりも、父上や母上の形見の品だったり、思い出だったりを大事にする様を見ておれば、言われずとも分かるものだ。」
「るき・・・・」
「だが、私もこうして大きくなれたのだ、両親には感謝しなくては」
「・・・るき、もう強がんな。」
恋次は、るきの言葉をさえぎったそうな。
「お前が親に感謝していることも嘘じゃねえってことくらい分かってら。
けどな、それと悔しいとか、哀しいとか、そういう感情は別モンだ。
別モンだからよ・・・素直に表に出していいんだぞ。誰も文句なんざ言いやしねぇから。」
・・・恋次は、初めてるきが泣く姿を目にしたのです。
何も言わず、ただ恋次はむせび小さな泣く背中をさすってやることしかできませんでした。

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職業:
多数?の草鞋履き(最近少し減らしました)
趣味:
読書、音楽弾き聴き、きもの、草いじり、料理、・・・あと、かきものとか。
自己紹介:
諸般の事情から「多数の草鞋」を履くことになってしまった私です。
息抜きとして、日々のことや趣味のことも書けたら良いなと思っています。

☆名前について☆
ここでは“さー”を使っていますが、“さー坊”というのも時折使っております。
(メール送信時は、名字まで付いてます。)
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