「多数のわらじ」を履いている?私の、ちょっとだけ息抜きさせてもらえる場所だったり
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ホントであれば、ここで終わるはず、だったんだ・・・。
でも終わらなかったんだ・・・。
白ルキ以外で此処まで長いの、多分「くり」(清家殿とルキアの敬老の日ネタ)以来や「にじ」(あくまでも外道なマユリ様が大活躍したネタ)とか・・・あれ、意外とあるみたいですね。
で、相変わらず植物は此れです。
ジュズダマです。
私自身、いい加減この植物を紹介するの、飽きてきました。。。
でも仕方ない、書き上げるまでは。。。
注意事項につきましては、今までのupした品をご覧下さい。
恋次が引き取った少女には奇妙な特徴と、哀しい過去がありました。
その状況をどうにかしようと恋次は彼女のためにあることを始めました。
そんな二人はどうなっていくのでしょうか。
でも終わらなかったんだ・・・。
白ルキ以外で此処まで長いの、多分「くり」(清家殿とルキアの敬老の日ネタ)以来や「にじ」(あくまでも外道なマユリ様が大活躍したネタ)とか・・・あれ、意外とあるみたいですね。
で、相変わらず植物は此れです。
ジュズダマです。
私自身、いい加減この植物を紹介するの、飽きてきました。。。
でも仕方ない、書き上げるまでは。。。
注意事項につきましては、今までのupした品をご覧下さい。
恋次が引き取った少女には奇妙な特徴と、哀しい過去がありました。
その状況をどうにかしようと恋次は彼女のためにあることを始めました。
そんな二人はどうなっていくのでしょうか。
『紫彩の娘』(4)
季節は進み、冬になっても・・・恋次はるきの顔を拭い続けました。
るきは何度も「もうあきらめよ」と言いましたが、恋次は諦めなかったそうな。
半分は意地になっていたのかもしれません。
「恋次、話があるのだ。」
年の瀬も近いある日の夜、るきは囲炉裏端で鉈の手入れをする恋次に向かって言いました。
「何だ?」
るきは背筋をぴんと伸ばして座っておりました。
其れを見て恋次も姿勢を正してるきのほうに体を向けて座りました。
「恋次、私は・・・実家へ戻ろうかと考えているのだ。」
「ハァ?????」
素っ頓狂な声を上げて、恋次はのけぞりました。
「貴様にこれ以上世話になり続けるわけには行かぬ。
浮竹の長者様の許へ奉公に出されている形になっておるゆえ、暇を出されたと申し上げれば両親も受け入れてくれようかと。」
「アンタを受け入れるような両親だったら、そもそも奉公になんざ出してねぇよ・・・・
おい、何があったんだ?何か言われたのか?村の奴らか?」
るきは首を横に振りました。
「違う・・・村の皆は温かく迎えてくれるし、この前は栗きんとんの造り方も教えてくれたのだ。」
「村の皆とはうまくいってんだな・・・じゃあ何故だ??」
「私は、貴様から離れたほうが良いのだ。」
「理由は?理由は何だ??」
自分でも不思議なくらい、恋次は身を乗り出してるきに詰め寄っていたそうな。
るきは淡々と、言葉を選びながら話し続けます。
「栗きんとんの作り方を教えてもらったときもそうなのだが・・・村の女衆から、貴様の話をよく聞かされた。
貴様は・・・ずっと縁談を断り続けている変わり者だと思われているようだな。」
「・・・・」
「村にも良い娘は多くは無いもののおるし、隣村だって貴様に似合う気立ての良い娘がおるのに、
貴様はいっこうに首を縦に振らぬ、と笑っておった。
・・・もしや私を預かっているから、貴様が縁談を断り続けておるのかと、」
「それは違ぇよ・・・アンタが来る前からずっと断ってんだ。
るき、お前がいるから俺が断り続けているのだと思ってんなら、それは勘違いだ。」
「このままだと貴様、ずっと変わり者扱いだぞ。早く嫁を貰え。
女衆の話が本当ならば、村の中にも外にも、貴様の嫁になってくれそうな女子は居ろうぞ。」
「嫁を貰う理由が『変わり者扱いをされないため』って、あのなオイ・・・・」
「貴様が嫁を貰わぬ理由は何だ?」
るきが至極真面目な顔をして自分を見つめるので、恋次はたじろぎました。
が・・・理由を聞くまで穴が開くほどにるきの視線が突き刺さり続けるだろうと悟り・・・諦め半分で語り始めました。
「・・・俺はよ、こう・・・なんつーか・・・ずっと前からよ、待っているヤツがいるような気がしてな。」
「待っている・・・貴様がか?」
「ああ。俺が、ソイツをずっと待ってんだ。」
「それは何処の誰だ?浮竹の長者様なら探してくれるやもしれぬぞ!!」
夜なのに直ぐにでも外に飛び出そうとしたるきを押しとどめ、恋次は続けました。
「それが分かれば苦労しねぇ。
・・・こう、ずっと心の奥底によ、俺は誰か大事なヤツと出会えるのを待ってんだ、って・・・。
けど誰だったかは思い出せねぇ。」
「・・・思い出せぬものを拠り所にして、貴様・・・一生独りでおるつもりか?」
「ソイツに出会えたら、俺はソイツと一緒になりてぇ、とは思ってんだ。
別に一生独りでいたいわけじゃねぇよ。」
「何処の誰とも分からぬのに、悠長な・・・そのまま白髪の老爺になってしまうぞ。」
るきは恋次の顔を見ながら、くすりと笑いました。
(コイツ・・・女衆がお前に対して「嫁になれ」とけしかけているのに気づいてはいないんだな。)
恋次はるきの鈍さに思わず苦笑しながら、思わずとんでもないことを口にしておりました。
「じゃあ・・・るき、お前が俺の嫁になるか?」
るきはぽかんとした顔をして、恋次を見ておりました。
まるで「言っていることが分からない」とでも言いたげな顔とでも言いましょうか。
「冗談は程ほどにせよ、恋次。」
「ははは・・・」
「私は気立ても良くないことくらい自覚しておるし、見た目もこの有様だ。
嫁になど到底行けぬことくらい分かりきっておる。
だが、貴様に『顔が黒くて色々と憐れなやつだから』という理由で娶られたくもないし、ましてや冗談でも聞きたくはないわ。」
そういうとるきは立ち上がり、茶でも入れてくると言いながら土間へ向かいました。
その後ろ姿を見やりながら、恋次は・・・何故自分があのような事をつい口走っていたのか考えていました。
「俺、冗談であんな事を言える・・・のか?」
茶を飲み終えたあと、恋次は日課となっていたるきの顔拭きをいつも通りに始めました。
が・・・途中でその手を止めて、るきの顔をじっと見つめました。
「どうしたのだ?恋次・・・・」
怪訝そうな顔をして恋次を見返するきに、ぽつりと恋次はつぶやきました。
「やっぱ、冗談では言えねぇ・・・・」
そう言うと、恋次はるきの顔を拭っていた布をジュズダマの煎じ汁の入った桶に戻し、姿勢を正してこう言いました。
「るき、お前が山二つ向こうの家に戻るつもりなのは分かった。
戻りたいと考えていることも分かった。」
「・・・・」
「けどな、もし春になって・・・そうだな、浮竹の長者様の家の庭の桜の花が咲くまでにお前の顔を白く戻してやれたなら・・・その時は諦めて俺の嫁になってくれ。
それまでに戻してやれなかったら・・・実家に帰るなり何なり、好きにしろ。
なーに、お前なら山仕事も何でも出来る、何処へ行っても良い働き手にはなるんだろうからな。」
「・・・私が自分で更にすすを塗りたくるかもしれぬぞ?」
「だったらそれごと拭い取ってやるから覚悟しておけ。」
恋次には、るきが『待っているヤツ』なのかどうかは分かりませんでした。
けれども、るきであれば村の皆にけしかけられても・・・其れを素直に受け入れて嫁に出来るような気がする、そう思うようになっていたのです。
それからというもの、恋次は宝物を扱うかのような丁寧さでるきの顔を拭くようになりました。
時折、るきが自分ですすを塗ったであろう痕跡を見つけることもありました。
すすを自分で顔に塗るほどに『嫁にはなりたくないのだ』と訴えることにより、早く恋次に諦めてもらい、ゆくゆくは『待っていたヤツ』を見つけるなり何なりして良い嫁を見つけてほしい、その一心ですすを塗っていたのです。
しかし恋次は、るきが自ら進んですすを塗っていたと気づいていても何も言わず、ただそっとふき取っていく・・・そんな恋次の姿に、るきの胸の内の頑なで染みの様にこびりついた何か、も・・・そっと拭い取られていくようでした。
やがて、るきは自分から顔に煤を塗ることを止めました。
「最初の頃と比べたら、それでも結構白くなってきたぜ。」
「鏡はあるのか?」
「いや、ウチに鏡は無ぇ・・・母親の鏡は一緒に埋めてやったらしいから。」
「貴様はどうやってその赤髪を結っておるのだ?髭も無いではないか。」
「髪は適当。髭は山小屋でやってる。鏡になりそうなモンを適当に使って。
・・・あ、水がめを覗いたら見えっかな。」
恋次と二人で土間の水がめを覗いて見ましたが、暗くてよく分かりません。
「これでは二人とも真っ黒に見えるな・・・。」
「ハハハ、俺も真っ黒だな。」
二人で水がめから顔を上げ、見合わせながら笑いました。
立春の頃を過ぎた頃には、るきの顔は『真っ黒』ではなく『鉛色』程度にまで色が落ちてきました。
けれども『真っ白』には程遠く。
るきの眉毛の輪郭も、まだ読み取れないような状態でした。まつげもあるのか分からないくらいです。
「・・・るきの顔、桜の花が咲き始める頃までに戻せるだろうか。」
刻限がそれなりに迫っていることを、改めて恋次は思い知りました。
天気の比較的良い日に浮竹の長者様の許へ行き、るきのことを相談したりもしましたが、
長者様は「俺には何もしてやれる事は無いよ。二人で決めたことなのだろう?」と笑って仰るだけでした。
とぼとぼと力なく恋次は家への道を歩いていきます。
このままの早さだったら、るきの顔は桜が咲く頃までに白くなどならない。
でもるきの顔を今以上にごしごしと磨いて傷めるような真似はできない。
浮竹の長者様にるきの翻意を促してもらえたらと思ったけれども、それは叶わない。
このままいけば・・・るきの顔は黒いまま。
「俺は・・・・」
色の白いるきがいいのか、今のままのるきでも構わないのか。
「私は気立ても良くないことくらい自覚しておるし、見た目もこの有様だ。
嫁になど到底行けぬことくらい分かりきっておる。
だが、貴様に『顔が黒くて色々と憐れなやつだから』という理由で娶られたくもないし、ましてや冗談でも聞きたくはないわ。」
「あ・・・そうか、顔が黒くてもいいことを、俺がしっかりと伝えればいいんだ。
俺は・・・そうだ、最初からるきの顔が黒いままでも良かったんだ・・・。
るきの顔が白くなったら、ってのは・・・るきのために付けた条件で、俺はそんなもの最初から要らなかったんだ。」
恋次は浮竹の長者様の家へ駆け戻りました。
「遅かったではないか、恋・・・次・・・・?」
相変わらずなれない手つきで食事の支度をしていたるきは、入口に立っていた恋次をみて唖然としたそうな。
「ハハハ、遅くなっちまって悪いな。」
「どうしたのだ貴様、その顔は!!」
恋次は浮竹の長者様の家へ戻ると、厨へ行ってすすを貰ってきたのです。
さすがの長者様も驚きましたが、恋次の言うままに任せてすすを分けてやったのです。
恋次は其れを顔に満遍なく塗りたくると、大急ぎで家路を駆けて来たのです。
(るきのやつ、こんなに恥ずかしい思いをしながら過ごしてきたってのか・・・・)
すすを塗って真っ黒な顔で走るのは、正直良い気持ちではありません。
村の誰ともすれ違いたくなかったし、見られてあくありませんでした。
「いや、ちょっと浮竹の長者様の所の厨ですっ転んじまってよ。」
いかにもな分かりやすい嘘でしたが、るきにはそんなことが分かりません。
土間で蓑と笠を取って近くの鉤にかけ、履物を脱いで上がりました。
「直ぐに手拭を持ってくる、」
「待て、るき・・・ちょっとこっちに来い。」
自分がいつも顔を拭ってもらっているジュズダマの煎じ汁と手拭を持ち上げていたるきを止め、恋次は傍に呼び寄せました。
とりあえず手に持った桶を運びながら、るきは恋次の傍までやってくると、そこに座りました。
「るき、俺の顔を最初に見て、どう思った?」
「何事かと思ったぞ。」
「何でこんなことになったか知ってるか?」
「知るか、そんなこと。」
「るきと同じだからだ。」
「は?」
まるで言っていることが理解できない、という顔を、るきは今日だけで2回も見せました。
「るきが黒い顔を気にしてるんだったら、俺も黒くなっちまえばいいって思ったんだ。」
「どうしてそうなった???」
「るき、お前は顔がそんなことになっちまったからって、俺にとっては『顔が黒くて色々と憐れな奴』なんかじゃねえ。
俺が煤だらけになったからって俺には変わらねぇだろ?」
「まあ、恋次は恋次ではあるが。」
「俺にとっちゃ、お前も同じだ。
色が黒かろうが白くなろうが、俺にとっちゃるきはるきなんだ。
ここで暮らし始めて、一緒に山仕事をして、蔓で籠を編んで、一緒に汁粉を食べて・・・。」
「・・・・」
「勿論、お前の考えも大事だからよ、無理にとは言わねぇ。
春になって色が黒いままだから実家に帰りたい、というのであれば、それでもいい。
だけどよ、俺は・・・るき、お前の顔が黒かろうと白かろうと、ここに残ってくれるのであれば残ってほしいと思ってんだ。
嫁として残るのが嫌なら、嫁じゃなくて今みたいに浮竹の長者様の家から預かった、という形でも構わねぇ。」
るきは一通り聞くと、小さな小さなため息を付きました。
呆れた、というよりは・・・参った、という気持ちの篭ったものでした。
それから、傍に置いたままの桶の中から手拭を取り出し、堅く絞ってから其れを持って立ち上がり、恋次の傍へ歩み寄りました。
「・・・んだよ、どうした?」
るきは黙って、恋次の顔をそっと拭き始めました。
それは自分がるきの顔を拭ってやるときのように、そっと優しく大事なものを磨くかのように。
恋次はるきに任せるように、目を閉じました。
「・・・このたわけ者が・・・・」
るきの声色が涙声になっているのを、閉じた目の代わりにるきの動きを必死に追っていた耳が拾いました。
「恋次!!大変だ!!!」
立春も過ぎ、、梅の花が咲き誇る時候になりました。
桜の花はまだまだ先ですが、そろそろ上巳の節句(じょうしのせっく:桃の節句のこと)の準備があちこちで始まっていました。
山はまだまだ雪深いところもありましたが、冬の間に雪の重みで倒れた木が無いか確認したり、既に蕗の薹が出ていたりするのもあり、其れを摘んだり、また猟師について行って猟の手伝いを行ったりしておりました。
今日も、そんな理由から山に入っていた恋次を見つけるや否や、浮竹の長者様や・・・最近るきが世話になっているという女衆のまとめ役である清音が必死の形相で彼を呼び止めました。
「え、長者様・・・どうされたんすか?」
「恋次、落ち着いて聞いてくれ、るきが、」
「るきがどうしたんすか!!!」
季節は進み、冬になっても・・・恋次はるきの顔を拭い続けました。
るきは何度も「もうあきらめよ」と言いましたが、恋次は諦めなかったそうな。
半分は意地になっていたのかもしれません。
「恋次、話があるのだ。」
年の瀬も近いある日の夜、るきは囲炉裏端で鉈の手入れをする恋次に向かって言いました。
「何だ?」
るきは背筋をぴんと伸ばして座っておりました。
其れを見て恋次も姿勢を正してるきのほうに体を向けて座りました。
「恋次、私は・・・実家へ戻ろうかと考えているのだ。」
「ハァ?????」
素っ頓狂な声を上げて、恋次はのけぞりました。
「貴様にこれ以上世話になり続けるわけには行かぬ。
浮竹の長者様の許へ奉公に出されている形になっておるゆえ、暇を出されたと申し上げれば両親も受け入れてくれようかと。」
「アンタを受け入れるような両親だったら、そもそも奉公になんざ出してねぇよ・・・・
おい、何があったんだ?何か言われたのか?村の奴らか?」
るきは首を横に振りました。
「違う・・・村の皆は温かく迎えてくれるし、この前は栗きんとんの造り方も教えてくれたのだ。」
「村の皆とはうまくいってんだな・・・じゃあ何故だ??」
「私は、貴様から離れたほうが良いのだ。」
「理由は?理由は何だ??」
自分でも不思議なくらい、恋次は身を乗り出してるきに詰め寄っていたそうな。
るきは淡々と、言葉を選びながら話し続けます。
「栗きんとんの作り方を教えてもらったときもそうなのだが・・・村の女衆から、貴様の話をよく聞かされた。
貴様は・・・ずっと縁談を断り続けている変わり者だと思われているようだな。」
「・・・・」
「村にも良い娘は多くは無いもののおるし、隣村だって貴様に似合う気立ての良い娘がおるのに、
貴様はいっこうに首を縦に振らぬ、と笑っておった。
・・・もしや私を預かっているから、貴様が縁談を断り続けておるのかと、」
「それは違ぇよ・・・アンタが来る前からずっと断ってんだ。
るき、お前がいるから俺が断り続けているのだと思ってんなら、それは勘違いだ。」
「このままだと貴様、ずっと変わり者扱いだぞ。早く嫁を貰え。
女衆の話が本当ならば、村の中にも外にも、貴様の嫁になってくれそうな女子は居ろうぞ。」
「嫁を貰う理由が『変わり者扱いをされないため』って、あのなオイ・・・・」
「貴様が嫁を貰わぬ理由は何だ?」
るきが至極真面目な顔をして自分を見つめるので、恋次はたじろぎました。
が・・・理由を聞くまで穴が開くほどにるきの視線が突き刺さり続けるだろうと悟り・・・諦め半分で語り始めました。
「・・・俺はよ、こう・・・なんつーか・・・ずっと前からよ、待っているヤツがいるような気がしてな。」
「待っている・・・貴様がか?」
「ああ。俺が、ソイツをずっと待ってんだ。」
「それは何処の誰だ?浮竹の長者様なら探してくれるやもしれぬぞ!!」
夜なのに直ぐにでも外に飛び出そうとしたるきを押しとどめ、恋次は続けました。
「それが分かれば苦労しねぇ。
・・・こう、ずっと心の奥底によ、俺は誰か大事なヤツと出会えるのを待ってんだ、って・・・。
けど誰だったかは思い出せねぇ。」
「・・・思い出せぬものを拠り所にして、貴様・・・一生独りでおるつもりか?」
「ソイツに出会えたら、俺はソイツと一緒になりてぇ、とは思ってんだ。
別に一生独りでいたいわけじゃねぇよ。」
「何処の誰とも分からぬのに、悠長な・・・そのまま白髪の老爺になってしまうぞ。」
るきは恋次の顔を見ながら、くすりと笑いました。
(コイツ・・・女衆がお前に対して「嫁になれ」とけしかけているのに気づいてはいないんだな。)
恋次はるきの鈍さに思わず苦笑しながら、思わずとんでもないことを口にしておりました。
「じゃあ・・・るき、お前が俺の嫁になるか?」
るきはぽかんとした顔をして、恋次を見ておりました。
まるで「言っていることが分からない」とでも言いたげな顔とでも言いましょうか。
「冗談は程ほどにせよ、恋次。」
「ははは・・・」
「私は気立ても良くないことくらい自覚しておるし、見た目もこの有様だ。
嫁になど到底行けぬことくらい分かりきっておる。
だが、貴様に『顔が黒くて色々と憐れなやつだから』という理由で娶られたくもないし、ましてや冗談でも聞きたくはないわ。」
そういうとるきは立ち上がり、茶でも入れてくると言いながら土間へ向かいました。
その後ろ姿を見やりながら、恋次は・・・何故自分があのような事をつい口走っていたのか考えていました。
「俺、冗談であんな事を言える・・・のか?」
茶を飲み終えたあと、恋次は日課となっていたるきの顔拭きをいつも通りに始めました。
が・・・途中でその手を止めて、るきの顔をじっと見つめました。
「どうしたのだ?恋次・・・・」
怪訝そうな顔をして恋次を見返するきに、ぽつりと恋次はつぶやきました。
「やっぱ、冗談では言えねぇ・・・・」
そう言うと、恋次はるきの顔を拭っていた布をジュズダマの煎じ汁の入った桶に戻し、姿勢を正してこう言いました。
「るき、お前が山二つ向こうの家に戻るつもりなのは分かった。
戻りたいと考えていることも分かった。」
「・・・・」
「けどな、もし春になって・・・そうだな、浮竹の長者様の家の庭の桜の花が咲くまでにお前の顔を白く戻してやれたなら・・・その時は諦めて俺の嫁になってくれ。
それまでに戻してやれなかったら・・・実家に帰るなり何なり、好きにしろ。
なーに、お前なら山仕事も何でも出来る、何処へ行っても良い働き手にはなるんだろうからな。」
「・・・私が自分で更にすすを塗りたくるかもしれぬぞ?」
「だったらそれごと拭い取ってやるから覚悟しておけ。」
恋次には、るきが『待っているヤツ』なのかどうかは分かりませんでした。
けれども、るきであれば村の皆にけしかけられても・・・其れを素直に受け入れて嫁に出来るような気がする、そう思うようになっていたのです。
それからというもの、恋次は宝物を扱うかのような丁寧さでるきの顔を拭くようになりました。
時折、るきが自分ですすを塗ったであろう痕跡を見つけることもありました。
すすを自分で顔に塗るほどに『嫁にはなりたくないのだ』と訴えることにより、早く恋次に諦めてもらい、ゆくゆくは『待っていたヤツ』を見つけるなり何なりして良い嫁を見つけてほしい、その一心ですすを塗っていたのです。
しかし恋次は、るきが自ら進んですすを塗っていたと気づいていても何も言わず、ただそっとふき取っていく・・・そんな恋次の姿に、るきの胸の内の頑なで染みの様にこびりついた何か、も・・・そっと拭い取られていくようでした。
やがて、るきは自分から顔に煤を塗ることを止めました。
「最初の頃と比べたら、それでも結構白くなってきたぜ。」
「鏡はあるのか?」
「いや、ウチに鏡は無ぇ・・・母親の鏡は一緒に埋めてやったらしいから。」
「貴様はどうやってその赤髪を結っておるのだ?髭も無いではないか。」
「髪は適当。髭は山小屋でやってる。鏡になりそうなモンを適当に使って。
・・・あ、水がめを覗いたら見えっかな。」
恋次と二人で土間の水がめを覗いて見ましたが、暗くてよく分かりません。
「これでは二人とも真っ黒に見えるな・・・。」
「ハハハ、俺も真っ黒だな。」
二人で水がめから顔を上げ、見合わせながら笑いました。
立春の頃を過ぎた頃には、るきの顔は『真っ黒』ではなく『鉛色』程度にまで色が落ちてきました。
けれども『真っ白』には程遠く。
るきの眉毛の輪郭も、まだ読み取れないような状態でした。まつげもあるのか分からないくらいです。
「・・・るきの顔、桜の花が咲き始める頃までに戻せるだろうか。」
刻限がそれなりに迫っていることを、改めて恋次は思い知りました。
天気の比較的良い日に浮竹の長者様の許へ行き、るきのことを相談したりもしましたが、
長者様は「俺には何もしてやれる事は無いよ。二人で決めたことなのだろう?」と笑って仰るだけでした。
とぼとぼと力なく恋次は家への道を歩いていきます。
このままの早さだったら、るきの顔は桜が咲く頃までに白くなどならない。
でもるきの顔を今以上にごしごしと磨いて傷めるような真似はできない。
浮竹の長者様にるきの翻意を促してもらえたらと思ったけれども、それは叶わない。
このままいけば・・・るきの顔は黒いまま。
「俺は・・・・」
色の白いるきがいいのか、今のままのるきでも構わないのか。
「私は気立ても良くないことくらい自覚しておるし、見た目もこの有様だ。
嫁になど到底行けぬことくらい分かりきっておる。
だが、貴様に『顔が黒くて色々と憐れなやつだから』という理由で娶られたくもないし、ましてや冗談でも聞きたくはないわ。」
「あ・・・そうか、顔が黒くてもいいことを、俺がしっかりと伝えればいいんだ。
俺は・・・そうだ、最初からるきの顔が黒いままでも良かったんだ・・・。
るきの顔が白くなったら、ってのは・・・るきのために付けた条件で、俺はそんなもの最初から要らなかったんだ。」
恋次は浮竹の長者様の家へ駆け戻りました。
「遅かったではないか、恋・・・次・・・・?」
相変わらずなれない手つきで食事の支度をしていたるきは、入口に立っていた恋次をみて唖然としたそうな。
「ハハハ、遅くなっちまって悪いな。」
「どうしたのだ貴様、その顔は!!」
恋次は浮竹の長者様の家へ戻ると、厨へ行ってすすを貰ってきたのです。
さすがの長者様も驚きましたが、恋次の言うままに任せてすすを分けてやったのです。
恋次は其れを顔に満遍なく塗りたくると、大急ぎで家路を駆けて来たのです。
(るきのやつ、こんなに恥ずかしい思いをしながら過ごしてきたってのか・・・・)
すすを塗って真っ黒な顔で走るのは、正直良い気持ちではありません。
村の誰ともすれ違いたくなかったし、見られてあくありませんでした。
「いや、ちょっと浮竹の長者様の所の厨ですっ転んじまってよ。」
いかにもな分かりやすい嘘でしたが、るきにはそんなことが分かりません。
土間で蓑と笠を取って近くの鉤にかけ、履物を脱いで上がりました。
「直ぐに手拭を持ってくる、」
「待て、るき・・・ちょっとこっちに来い。」
自分がいつも顔を拭ってもらっているジュズダマの煎じ汁と手拭を持ち上げていたるきを止め、恋次は傍に呼び寄せました。
とりあえず手に持った桶を運びながら、るきは恋次の傍までやってくると、そこに座りました。
「るき、俺の顔を最初に見て、どう思った?」
「何事かと思ったぞ。」
「何でこんなことになったか知ってるか?」
「知るか、そんなこと。」
「るきと同じだからだ。」
「は?」
まるで言っていることが理解できない、という顔を、るきは今日だけで2回も見せました。
「るきが黒い顔を気にしてるんだったら、俺も黒くなっちまえばいいって思ったんだ。」
「どうしてそうなった???」
「るき、お前は顔がそんなことになっちまったからって、俺にとっては『顔が黒くて色々と憐れな奴』なんかじゃねえ。
俺が煤だらけになったからって俺には変わらねぇだろ?」
「まあ、恋次は恋次ではあるが。」
「俺にとっちゃ、お前も同じだ。
色が黒かろうが白くなろうが、俺にとっちゃるきはるきなんだ。
ここで暮らし始めて、一緒に山仕事をして、蔓で籠を編んで、一緒に汁粉を食べて・・・。」
「・・・・」
「勿論、お前の考えも大事だからよ、無理にとは言わねぇ。
春になって色が黒いままだから実家に帰りたい、というのであれば、それでもいい。
だけどよ、俺は・・・るき、お前の顔が黒かろうと白かろうと、ここに残ってくれるのであれば残ってほしいと思ってんだ。
嫁として残るのが嫌なら、嫁じゃなくて今みたいに浮竹の長者様の家から預かった、という形でも構わねぇ。」
るきは一通り聞くと、小さな小さなため息を付きました。
呆れた、というよりは・・・参った、という気持ちの篭ったものでした。
それから、傍に置いたままの桶の中から手拭を取り出し、堅く絞ってから其れを持って立ち上がり、恋次の傍へ歩み寄りました。
「・・・んだよ、どうした?」
るきは黙って、恋次の顔をそっと拭き始めました。
それは自分がるきの顔を拭ってやるときのように、そっと優しく大事なものを磨くかのように。
恋次はるきに任せるように、目を閉じました。
「・・・このたわけ者が・・・・」
るきの声色が涙声になっているのを、閉じた目の代わりにるきの動きを必死に追っていた耳が拾いました。
「恋次!!大変だ!!!」
立春も過ぎ、、梅の花が咲き誇る時候になりました。
桜の花はまだまだ先ですが、そろそろ上巳の節句(じょうしのせっく:桃の節句のこと)の準備があちこちで始まっていました。
山はまだまだ雪深いところもありましたが、冬の間に雪の重みで倒れた木が無いか確認したり、既に蕗の薹が出ていたりするのもあり、其れを摘んだり、また猟師について行って猟の手伝いを行ったりしておりました。
今日も、そんな理由から山に入っていた恋次を見つけるや否や、浮竹の長者様や・・・最近るきが世話になっているという女衆のまとめ役である清音が必死の形相で彼を呼び止めました。
「え、長者様・・・どうされたんすか?」
「恋次、落ち着いて聞いてくれ、るきが、」
「るきがどうしたんすか!!!」
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花個紋時計
プロフィール
HN:
さー
性別:
女性
職業:
多数?の草鞋履き(最近少し減らしました)
趣味:
読書、音楽弾き聴き、きもの、草いじり、料理、・・・あと、かきものとか。
自己紹介:
諸般の事情から「多数の草鞋」を履くことになってしまった私です。
息抜きとして、日々のことや趣味のことも書けたら良いなと思っています。
☆名前について☆
ここでは“さー”を使っていますが、“さー坊”というのも時折使っております。
(メール送信時は、名字まで付いてます。)
どれでもお好きなものでお呼び下さいませ♪
息抜きとして、日々のことや趣味のことも書けたら良いなと思っています。
☆名前について☆
ここでは“さー”を使っていますが、“さー坊”というのも時折使っております。
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